認知症の母は遺言を書けますか?【遺言能力】
2020.12.03 飯田橋法律事務所
弁護士中野雅也
高齢者の遺言をめぐる紛争が増加しています。
公証人が関与して作成した「公正証書遺言」を認知症で判断能力を欠いていたとして、無効とする裁判例も数多く公表されています。
1 認知症の母は遺言を書けますか?
同居する母が、長女である私に全ての財産を相続させる遺言を作りたいと言っています。ただし、母は、主治医からアルツハイマー型認知症であると診断を受けていて、物忘れが激しいと感じています。母が、遺言を書いたとしても無効なのではないでしょうか。妹の次女から苦情を受けそうで悩んでいます。
2 判断能力があるかを主治医に診断してもらうのがよいでしょう
一般に、遺言能力は、遺言の当時、遺言の内容を理解して、遺言の結果を弁識し得るに足りる能力と言われています。
どのような場合に遺言能力がないとして遺言が無効になるかはケースバイケースであると言えます。
裁判例を参照すると、認知症であっても遺言能力があると認定しているものがあります。
したがって、「認知症=遺言能力なし」との関係にはなりません。この点に注意が必要です。
ご相談のケースですと、お母様は、アルツハイマー型認知症の診断を受けていますが、その症状の程度によっては、遺言書を書くことも可能であるかもしれません。
主治医と相談して、「改訂 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」などの検査をしていただき、お母様の判断能力の数値を図ることがよいでしょう。
主治医には、お母様が遺産の概要や推定相続人の範囲などの理解し、どう分けるかを判断する能力があるかどうかを診断いただくのがよいと考えます。
主治医から診断書をもらった上で、公証人役場で、お母様がその要望に沿って遺言を作れるかどうかを聞いてみることがよいでしょう。
3 遺言無効確認の訴えについて
遺言無効確認の訴えとは、故人が残した遺言が無効であることを、裁判所に対して確認を求める訴えです。
故人が重度の認知症に罹患して施設で生活していた際に遺言を残していた場合など判断能力に疑いがある場合や、遺言の内容自体が不合理な場合(例えば親族ではない弁護士に全ての財産をあげてしまう。)などが想定されます。
上記のような事情がある場合において、遺言の内容に納得がいかない相続人の方は、要介護認定の記録や主治医意見書などの資料を収集し、弁護士に相談するとよいと考えています。
4 裁判例の紹介 東京地判平成29年4月26日判例秘書登載
亡Aが、長女であるYに対し、遺産のうち4000万円の預金を遺贈する内容の本件自筆証書遺言(平成24年1月13日付)に関し、亡長男の長女及び二女であるXらが遺言無効確認を求めた事案です。
東京地裁は、本件遺言書作成当時の亡Aの状況につき、認知症の症状が悪化しており、遺言直前には年月日や自分のいる場所さえ答えることができなかったことから、亡Aの認知症の程度は中程度に進んでいたと認めるとともに、本件自筆証書遺言の内容は、本件自筆証書遺言の作成される1年前の平成23年1月に作成された公正証書遺言の内容と異なっており、遺言の内容変更につき、Xらとの関係が悪化したとの事情もうかがえないなどとし、本件自筆証書遺言がYの自宅に外泊中に作成され、その内容はYの意思が強く表れていることなどを総合的に考慮し、本件自筆証書遺言の作成当時の亡Aの遺言能力を否定し、遺言の無効を確認しました。
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代表弁護士 経歴 | 2010.12 大江忠・田中豊法律事務所入所 2017.04 全国銀行協会あっせん委員会事務局付弁護士 就任 2020.07 飯田橋法律事務所開設 |
著書及び 論文 | 「判例でみる音楽著作権訴訟の論点80講」(日本評論社、2019年)(共著) 「遺産分割実務マニュアル(第4版)」(ぎょうせい、2021年2月)(共著) 「離婚・離縁事件実務マニュアル(第4版)」(ぎょうせい、2022年2月)(共著) |
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