2020年10月20日
飯田橋法律事務所
弁護士 中 野 雅 也
取締役の報酬を減額された又は取締役の報酬を減額したいとのご相談は多くあります。本年、取締役報酬の支払がストップしてしまった方の代理人として未払報酬を回収しました。そこで、取締役の報酬の減額に関する記事を書いてみます。
【取締役の報酬を一方的に減額されてしまった・・・差額を請求できますか?】
① 100%株主から勧誘されて、ある会社の取締役に就任しました。株主総会において具体的に月額報酬を定めていただきました。しかし、その株主が、突然、臨時株主総会を開催して取締役報酬を半額にしたと言い出しました。一方的に報酬を減額されてしまって憤っています。差額を請求できませんか?
② 常勤取締役から非常勤取締役にされたことにより職務内容に著しい変更があった場合は、どうでしょうか?
【回 答】株主総会決議によって一方的に減額することはできません。差額を請求していくことになります。
① 下記の最高裁判決によれば、定款又は株主総会決議で定めた報酬額を株主総会によっても一方的に変更できません。当初の報酬額が、会社と取締役の契約内容になっていますので、減額分を未払であるとして請求することができます。
② 下記の最高裁判決によれば、取締役の職務内容に著しい変更があり、株主総会で報酬が減額されたとしても、株主総会決議により報酬を一方的に減額できません。減額分を未払であるとして請求することができます。
【会社は取締役から減額の同意を取る必要がある】
下記の最高裁判決によれば、定款又は株主総会決議によって具体的に定めた報酬額は、会社と取締役との間での契約内容になります。
当該取締役としては、減額を同意しない限り一方的に報酬を減額されることはありませんので、差額を請求できると理解することになります。
そうすると、会社としては、取締役との間で報酬減額の同意を得る必要があることになります。なお、例外的に、取締役を任用するに当たって、取締役任用契約等により一定の場合において株主総会決議により取締役報酬の増額又は減額があり得ることをあらかじめ合意をしているなどの個別的な事情があり、減額の黙示の同意があると判断できる場合については、減額変更もできる旨文献で指摘されています。このような場合も、訴訟リスクが生じることから、会社としては慎重に判断すべきです。
【参考判例】最判平成4年12月18日民集46巻9号3006号
「株式会社において、定款又は株主総会の決議(株主総会において取締役報酬の総額を定め、取締役会において各取締役に対する配分を決議した場合を含む。)によって取締役の報酬額が具体的に定められた場合には、その報酬額は、会社と取締役間の契約内容となり、契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから、その後株主総会が当該取締役の報酬につきこれを無報酬とする旨の決議をしたとしても、当該取締役は、これに同意しない限り、右報酬の請求権を失うものではないと解するのが相当である。この理は、取締役の職務内容に著しい変更があり、それを前提に右株主総会決議がされた場合であっても異ならない。」
【会社法の条文(取締役の報酬等)】
第三百六十一条 取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
三 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容
取締役として取締役報酬の請求をする場合も、会社として取締役報酬の減額の検討する場合も、定款、株主総会決議(又はそれに代わる株主の同意)、当該取締役の任期、取締役任用契約の有無等の個別的な事情に基づいて判断することが求められます。お悩みの方は、ご相談ください。
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代表弁護士 経歴 | 2010.12 大江忠・田中豊法律事務所入所 2017.04 全国銀行協会あっせん委員会事務局付弁護士 就任 2020.07 飯田橋法律事務所開設 |
著書及び 論文 | 「判例でみる音楽著作権訴訟の論点80講」(日本評論社、2019年)(共著) 「遺産分割実務マニュアル(第4版)」(ぎょうせい、2021年2月)(共著) 「離婚・離縁事件実務マニュアル(第4版)」(ぎょうせい、2022年2月)(共著) |
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