相続が発生しました。不動産の賃料収入は誰のものになりますか?
2020.1.25
飯田橋法律事務所
弁護士中野雅也
1 はじめに
故人が収益物件を保有していると、相続人間で遺産分割をしている際にも賃料が発生し続けます。
2 お困りの内容 相談の一例
この度、母が亡くなりました。遺言はありません。母はアパートを所有して賃貸に出していました。
相続人は兄と弟の二人で、私は弟です。困ったことに、母と同居していた兄が、賃料の入金先を兄名義の銀行口座に移してしまいました。
私が兄に対して、アパートの賃料を全て持って行ってしまうのはおかしいと抗議しました。兄は、自分がアパートを相続するのだから、遺産分割協議中の賃料を受け取る権利があると主張しています。兄の言い分に納得できません。
3 回答 兄の主張に法的な理由はありません
最高裁の判例によると、遺産分割協議中の遺産から生ずる賃料債権は、相続人が相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得します。
相談者である弟は、遺産分割協議中、賃料債権のうち法定相続分である2分の1を確定的に取得することになります。
例えば、月額50万円の賃料債権があるとすると、弟は月額25万円の賃料債権を取得することになります。
兄は遺産分割によってアパートを相続するにしても遺産分割協議中の家賃収入を独り占めできません。
4 今後の方針
相談者である弟は、賃借人又は賃料回収を受託している管理会社との間で、賃料の2分の1を直接支払うよう交渉することが考えられます。弟は、最高裁の判例のとおり、「分割」された賃料「債権」を「単独」で取得していますので、兄の同意を得る必要はありません。
弟は、兄に対し、遺産分割協議中に発生した賃料のうち、兄が取りすぎた分を返してもらうべく、不当利得に基づく利得金返還請求等を行うことで対応することも考えられます。
管理会社や賃料の額によっては、弁護士からの通知がなければ、賃料の振込先口座を変更できないと対応される場合もあります。弁護士に依頼することにより賃料の入金先の変更手続等がスムーズに進むことが期待できます。
兄と弟で賃料収入を遺産分割の対象とする合意をし、訴訟等によることなく遺産分割協議のなかで、賃料収入を分けるなどの調整をしたほうが相当である場合もございます。
家賃収入の額、管理会社との契約内容、管理手数料の控除、固定資産税の負担など個別的な事情が絡みますので、遺産分割中の家賃収入についてお困りの方は、ご相談ください。
【最高裁判所の判例】
最判平成17年9月8日民集第59巻7号1931頁
判示事項「共同相続に係る不動産から生ずる賃料債権の帰属と後にされた遺産分割の効力」
裁判要旨「相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、その帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けない。」
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代表弁護士経歴 | 2010.12 大江忠・田中豊法律事務所入所 2017.04 全国銀行協会あっせん委員会事務局付弁護士 就任 2020.07 飯田橋法律事務所開設 |
著書及び論文 | 「判例でみる音楽著作権訴訟の論点80講」(日本評論社、2019年)(共著) 「遺産分割実務マニュアル(第4版)」(ぎょうせい、2021年2月)(共著) 「離婚・離縁事件実務マニュアル(第4版)」(ぎょうせい、2022年2月)(共著) |