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  • 執筆者の写真弁護士 中野 雅也

【退職慰労年金】取締役の退職慰労年金を一方的に減額されてしました・・・未支給年金を請求できませんか?

更新日:2022年9月29日


2020.10.26

飯田橋法律事務所

弁護士 中野雅也


【質問 退職慰労年金の打ち切りは不当ではないか?】

 私は、ある株式会社の常務取締役を退任し、退任時に株主総会決議を経て当時の役員退職慰労金規程(「本件内規」)に従って、退職慰労年金として月額10万円(支給期間20年)受け取っていました。その後、新型コロナウイルスによる経営難を理由として、取締役会によって本件内規が廃止されてしまいました。

 いったん決まった退職慰労年金の支給が打ち切ることなどできるのでしょうか。今後の生活もありますので、未支給分の請求をしたいです。

【回答 年金の支給を請求できる可能性があります】

 下記の最高裁判決平成22年3月16日によれば、株主総会の決議を経て、取締役に対する退職慰労金の算定基準等を定める内規に従って支給されることになった退職慰労金年金については、会社と退任役員との間での契約内容になりますので、退任取締役は具体的な退職慰労年金債権を取得します。したがって、会社は、退任取締役の同意なく、取締役会等で一方的に内規を廃止して退職慰労年金を打ち切ることはできません。したがって、相談者様は、退職慰労年金が未支給であるとして請求をしていくことになります。

【具体的に定められた退職慰労年金の支給を打ち切るには個別の同意が必要になる】

 事案にもよりますが、通常、退職慰労年金は、取締役の職務執行の対価として支給される趣旨を含みますので、会社法361条1項にいう「報酬」に当たります。

 退職慰労年金が、会社法361条1項の報酬に該当し、定款又は株主総会決議によって支給額や支給期間等が定められた場合には、会社と退任取締役の契約内容となりますので、その契約内容に沿って具体的に発生した退職慰労年金債権を会社が一方的に奪うことはできません。会社も退任取締役も定まった契約に拘束されることになります。

 そうすると、会社が、社会経済状況等の変化に対応し、このような退職慰労年金の減額又は支給の打ち切りをするには、退職取締役の個別的な同意が必要になるのが原則になります。

 したがって、退任取締役が、会社による退職慰労年金の減額又は打ち切りに不満があるのであれば、未支給になっているとして会社に対して請求をすることになります。

 他方、会社としては、退任取締役から社会経済的状況等の変化を詳細に説明の上で退職慰労年金の減額又は打ち切りにつき理解を得て個別的な合意を得ることが求められることになります。

【退職慰労金規程の内容などを調査する必要があります】

 下記最高裁判決平成22年3月16日の事案においては、役員退職慰労金規程には、将来の経済的な情勢の変化等に伴って退職慰労年金の減額又は廃止があり得る旨が定められていませんでした。

 仮に、退職慰労金規程に変更があり得る旨の定めが存在した場合には、経済的な情勢の変化により減額又は廃止が想定されていたとして、退任取締役の黙示的な同意があったとして、減額又は廃止が有効となる余地があります。

 退任取締役として未支給年金の請求をする場合も、会社として退職慰労年金の減額又は廃止の検討する場合も、退職慰労年金規程の定め方(減額又は廃止の想定)、年金支給額、年金支給期間、経済情勢の変化の程度、減額又は廃止の合理性などの個別的な事情に基づいて判断することが求められますので、弁護士の意見を聴取することが必要になります。お悩みの方は、弁護士にご相談ください。

【参考となる最高裁判決】

 最判平成22年3月16日判例タイムズ1323号114頁は、以下のとおりの判断をしています。

「被上告人の取締役に対する退職慰労年金は,取締役の職務執行の対価として支給される趣旨を含むものと解されるから,会社法361条1項にいう報酬等に当たる。本件内規に従って決定された退職慰労年金が支給される場合であっても,取締役が退任により当然に本件内規に基づき退職慰労年金債権を取得することはなく,被上告人の株主総会決議による個別の判断を経て初めて,被上告人と退任取締役との間で退職慰労年金の支給についての契約が成立し,当該退任取締役が具体的な退職慰労年金債権を取得するに至るものである。被上告人が,内規により退任役員に対して支給すべき退職慰労金の算定基準等を定めているからといって,異なる時期に退任する取締役相互間についてまで画一的に退職慰労年金の支給の可否,金額等を決定することが予定されているものではなく,退職慰労年金の支給につき,退任取締役相互間の公平を図るために,いったん成立した契約の効力を否定してまで集団的,画一的な処理を図ることが制度上要請されているとみることはできない。退任取締役が被上告人の株主総会決議による個別の判断を経て具体的な退職慰労年金債権を取得したものである以上,その支給期間が長期にわたり,その間に社会経済情勢等が変化し得ることや,その後の本件内規の改廃により将来退任する取締役との間に不公平が生ずるおそれがあることなどを勘案しても,退職慰労年金については,上記のような集団的,画一的処理が制度上要請されているという理由のみから,本件内規の廃止の効力を既に退任した取締役に及ぼすことは許されず,その同意なく上記退職慰労年金債権を失わせることはできないと解するのが相当である。


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代表弁護士

経歴

2010.12 大江忠・田中豊法律事務所入所

2017.04 全国銀行協会あっせん委員会事務局付弁護士 就任

2020.07 飯田橋法律事務所開設

著書及び

論文

「判例でみる音楽著作権訴訟の論点80講」(日本評論社、2019年)(共著)

「遺産分割実務マニュアル(第4版)」(ぎょうせい、2021年2月)(共著)

「離婚・離縁事件実務マニュアル(第4版)」(ぎょうせい、2022年2月)(共著)

https://www.nakanobengoshi.com/post/isan-manual




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