質問
先日、サラリーマンの夫と離婚しました。元夫の年齢は50代後半で、数年後には定年退職を迎えます。元夫の会社には退職金制度があるようですが、いくらもらえるのか、具体的な金額はわかりません。元夫が退職金をもらうのを待ってから離婚した方が、私に有利だったのでしょうか?離婚後に支給される退職金は、財産分与の対象とならないのでしょうか?
回答
離婚時点で支給されておらず、将来支給予定の退職金であっても、夫婦が協力して形成したものといえれば、離婚時または別居時における夫婦の共有財産ということができます。そして、将来支給される可能性が高い場合は、財産分与の対象となり得ます。もっとも、その金額の計算方法は少々複雑ですので、専門家への相談をおすすめします。
最近の熟年離婚の件数
令和2年(2020)離婚件数は19万3251組でした。そのうち同居期間が20年以上の夫婦は3万8980組でした。
令和4年の離婚件数は17万9096組でした。そのうち同居期間が20年以上の夫婦は 3万8990組でした。
熟年離婚の割合は、離婚数の全体から見ても相当に大きいものであるといえます。
特に、熟年離婚、結婚生活が長い夫婦は、夫婦共同生活により形成してきた財産が多い傾向にありますので、正確な財産の把握が重要になります。
令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況

「財産分与とは?」「財産分与の対象」など、財産分与に関する基礎知識については、
当ブログの他の記事でも解説しています。ぜひ、ご一読ください。
離婚に伴う財産分与について 夫名義の株や投資信託は財産分与の対象になりますか。
離婚に伴う財産分与について 夫名義で購入した自宅は財産分与の対象になりますか。
1 - 退職金とは
退職金は、退職時に支給を受ける金銭で、財産的な価値があります。
退職金には「給与の後払い」の性質があり、婚姻期間中の夫婦の協力によって得られたものとして、共有財産となります。

【離婚の前にすでに退職金が支給されている場合】
例えば、夫が就職して10年後に結婚した場合において、同じ会社に夫が20年間勤務し、退職して退職金800万円を得た直後に、夫婦が離婚したとの事例で考えてみましょう。
この場合、夫が就職した時からではなく、結婚したときから退職までの期間についての退職金のみが財産分与の対象となります。財産分与が共有財産とされる理由は、夫婦の協力によって得られた財産だからです。夫婦共同生活に該当しない期間は対象となりません。
上記の例では、800万円のうち共有財産となるのは、勤務期間20年間のうち10年間分の400万円です。夫婦の分与割合を1/2とした場合には、妻の取り分は200万円となります。
(退職金800万円÷20年×10年×1/2=200万円)
【離婚した後に退職金が支給される場合】
将来支給予定の退職金をどのように取り扱うかは、大変難しい問題です。
社会状況、経済状況の変化の激しい時代において、将来本当に退職金が支給されるか、はっきりしないからです。また、勤務先の会社の存続、経営状態、本人の退職時期、退職理由等の要素も影響する場合があります。判例では、退職金が支給される蓋然性が高い(=「確実に支給されるだろう」という状態である)場合には、将来の退職金を財産分与の対象としています。
清算の仕方は、以下のような方法が考えられます。
<清算方法の例>
・離婚時点で仮に退職すれば支給されるだろう退職金の額を清算の対象とする。
・将来支給されることを条件として清算の対象とする。
・将来の退職金額を現時点で清算の対象とする。
なお、正確な計算を行うためには、夫の勤務先から「退職金規定」等の資料を提出してもらう必要があります。
2- 退職金を財産分与の対象にする際の注意点
(1)会社の退職金規定を入手する
財産分与の協議は揉めることが多いです。できれば離婚を切り出す前の段階で、夫の会社に「退職金規定」があるかを確認しておく必要があります。そもそも、退職金制度自体が存在しない会社もあるからです。
とはいえ、現実的には、離婚前に確認することが困難な場合もあるでしょう。
では、離婚後、夫や夫の会社が退職金規定の開示に応じない場合はどうしたらよいのでしょうか。
この場合、「弁護士会照会」(弁護士会を通じた手続き)によって、開示させることができる場合があります。
◆弁護士会照会とは
弁護士会照会(べんごしかいしょうかい)とは、弁護士会を通じた手続です。弁護士が依頼を受けた事件について、証拠や資料を収集し、事実を調査するなど、その職務活動を円滑に行うために設けられた法律上の制度です。 個々の弁護士が行うものではなく、弁護士会がその必要性と相当性について審査を行った上で照会を行う仕組みになっています。ただし、相手方は回答する義務がなく、回答を拒否しても制裁はないため、必ず開示されるとは限りません。
(2)財産分与請求できる期限
財産分与の期限は離婚から2年間です(民法768条2項ただし書)。この期間制限は「除斥期間」ですので、一定の事由があっても進行が停止したりゼロに戻ること等がありません。
このように、請求できる期限には注意が必要であり、離婚した後に財産分与請求をしたいときは早めに弁護士への相談をおすすめします。
3- 弁護士に依頼するメリット
(1)弁護士に頼むことで納得のできる解決に近づく
離婚をした場合には、夫婦間で感情的になるなど、冷静な話し合いが困難な場合もあります。一方で、離婚の財産分与については、対象財産が何か、価額はいくらなのか等、客観的な資料に基づいて分析する必要があります。そこで、弁護士に依頼することで、財産分与の対象財産の見落としや評価の間違いを防ぎ、公平な財産分与をすることができます。また、紛争開始前から、依頼者様のご状況の確認等をすることで、安心して協議を進めることができるようになります。
(2)弁護士に頼むことでトラブルの長期化を防ぐ
財産分与について、協議や調停で解決できない場合には、審判や裁判に至ることがあります。長期間にわたって書面のやりとりや家庭裁判所への出頭をすることは精神的にも辛いものがあります。早い段階から弁護士に頼むことで、財産分与請求に関して要点をおさえ、交渉ができることから、協議や調停等で公平かつ迅速な解決に至ることが考えられます。
(3)協議をした後のトラブルを防げる
財産分与については、当事者で協議して解決することになりますが、せっかく協議で解決したように思えても、合意書を検討すると、合意の内容が不明確であったり、債務の履行が確保できていないケースも多々見られます。協議により合意に至った内容を弁護士等の専門家に合意書に整理してもらうことが安心です。
離婚に伴う財産分与 お問い合わせ
事務所名 | 飯田橋法律事務所 |
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弁護士 | 中野雅也 |
事務所住所 | 〒162-0822 東京都新宿区下宮比町2−28飯田橋ハイタウン317 |
電話番号 | 03-5946-8070 |
営業時間 | 平日 10:30〜21:00 土日祝日のご相談も対応できます(要事前予約) ※電話相談につきましては、5分程簡単に内容をお伺いし、面談が必要となりましたら面談相談のご案内させていただきます。 |
代表弁護士 経歴 | 2010.12 大江忠・田中豊法律事務所入所 2017.04 全国銀行協会あっせん委員会事務局付弁護士 就任 2020.07 飯田橋法律事務所開設 |
著書及び 論文 | 「判例でみる音楽著作権訴訟の論点80講」(日本評論社、2019年)(共著) 「遺産分割実務マニュアル(第4版)」(ぎょうせい、2021年)(共著) 「離婚・離縁事件実務マニュアル(第4版)」(ぎょうせい、2022年2月)(共著) https://www.nakanobengoshi.com/post/isan-manual |
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