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  • 執筆者の写真弁護士 中野 雅也

取締役に就任する際の注意点はありますか?~基本的な知識と注意点~

更新日:2023年9月19日

取締役に就任することを検討している方向けに、取締役に関する基本的な知識について説明していきます。


取締役の任期、善管注意義務、競業避止義務、利益相反、任務懈怠責任、損害賠償責任



1.はじめに

質問
このたび、中小企業の大株主の方から、「うちの会社の取締役になってくれないか」とのお誘いがありました。取締役に就任しようと思っているのですが、取締役に就任するにあたって気をつけておくべきことや、知っておかなければならないことはありますか。
回答
取締役は法律で定められた義務を負うことになりますので注意が必要です。取締役の就任、任期や、権利義務の関係の概要を知った上で、業務を行う必要があります。

2.取締役の選任・終任


(1)資格

 取締役は自然人に限られます。会社等の法人が取締役になることはできません(会社法331条1項1号)。また、欠格事由(同法331条1項3号・4号)もあり、該当する場合は取締役になることはできません。


(2)任期

 取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです(会社法332条1項)。

 もっとも、任期については公開会社か否かによって伸長・短縮できるかが異なります。非公開会社とは、全株式につき譲渡制限が付されている会社をいいます。日本においては、大半の会社が非公開会社です。


 ア.公開会社

 任期の短縮は可能ですが、長くすることはできません(会社法332条1項但書)。なぜなら、公開会社においては、株主が変動しますので、短期的に現在の株主の信任を問う必要があるからです。


 イ.非公開会社

 非公開会社においては、定款により、任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結時までに長くできます(会社法332条2項)。

 なぜなら、非公開会社においては、株主と取締役とが一致している場合が多く、長期的な視点での経営が求められます。短期間で、就任と退任を繰り返し、登記を変更するというメリットはあまりありません。


 取締役就任時に、任期が何年であるのかを確認する必要があるでしょう。


(3)選任方法

 取締役は、株主総会決議によって選任されます(会社法329条1項)。

 選任に関する決議については、普通決議事項になります。つまり、議決権行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行われます。(同法309条1項)。

 もっとも、定款によっても、定足数を議決権行使できる株主の議決権の3分の1未満とすることはできません(会社法341条)。


(4)終任

 取締役は任期の満了により終任となります(会社法332条1項・2項)

 また、取締役は、取締役の意思によりいつでも辞任ができます(民法651条1項)。もっとも、辞任により役員が欠けた場合又は法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、新たに役員が就任するまで取締役としての義務を負うことになります(会社法346条1項)。

 場合によっては、株主に対し、株主総会を開催の上で、新たな取締役を選任するよう求めなければならないこともあります。


3.取締役と会社との関係

(1)善管注意義務と忠実義務

 ア.善管注意義務

 会社法上、株式会社と取締役(役員)との関係は、委任に従う規定に従います(会社法330条)。したがって、取締役は会社との間での委任契約に基づき、職務を行う際に善管注意義務を負います(民法644条)。

 イ.忠実義務

 取締役は法令・定款および株主総会の決議を遵守し、会社のために忠実にその職務を行うことが求められます(会社法355条)。

 なお、善管注意義務と忠実義務の関係につき、判例は、「民法644条に定める善管義務を敷衍し、かつ一層明確にしたにとどまるものであって、・・・通常の委任関係に伴う善管義務とは別個の、高度な義務を規定したものとは解することができない」(最判昭和45年6月24日民集24巻6号625頁)と解しています。


(2)競業避止義務

 取締役が、自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとするときは、取締役会設置の有無によって以下の手続が必要です。

 ア.取締役会設置会社以外の場合

 取引における重要な事実を開示して株主総会の承認を得る必要があります(会社法356条1項1号)。

 イ.取締役会設置会社の場合

 上記と同様、重要な事実を開示して取締役会の承認を得る必要があります(会社法365条1項、会社法356条1項1号)。

 以上のように、取締役が競業取引を行う場合には手続を経る必要があります。同業他社の取締役に就任する場合には特に注意が必要です。


(3)利益相反取引

 取締役が、会社との間で、①直接取引、②間接取引を行う場合には、会社との利益が相反することから、以下の手続を行う必要があります。

 ア.直接取引

 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引(直接取引)をしようとするときは、取締役会設置会社以外の会社においては、重要な事実を開示して株主総会の承認を得ることが必要です(会社法356条1項2号)。また、取締役会設置会社においては、取締役会の承認を得ることが必要です(会社法365条1項)。

 典型例は、会社が取締役に対して土地や商品を売却することなどがあります。売却代金が相場よりも廉価であれば、会社の利益が損なわれますので、そのような危険を防止しているのです。

 イ.間接取引

 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引(間接取引)をしようとするときは、取締役会設置会社以外の会社においては、重要な事実を開示して株主総会の承認(会社法356条1項3号)を得ることが必要です。また、取締役会設置会社においては、取締役会の承認を得ることが必要です(会社法365条1項)。

 以上のように、取締役が利益相反取引を行う場合には手続を経る必要があります。

 典型例は、取締役が金融機関から借り入れを行う際に、会社がその債務を連帯して保証することです。


4.取締役の報酬等


 民法において、委任契約の受任者は無報酬が原則です(民法648条1項)。取締役と会社との関係は委任に関する規定に従う(会社法330条)とされています。したがって、受任者である取締役は、無報酬が原則です。

 取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(報酬等)については、定款や株主総会決議によって具体的に定める必要があります(会社法361条1項)。

 例えば、報酬等のうち額が確定しているものについては、その額(同項1号)、報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な計算方法(同項2号)、それぞれ定款又は株主総会決議によって定める必要があります。

 もっとも、報酬等の各取締役に対する具体的な配分については、取締役会設置会社においては取締役会の決定(最判昭和60年3月26判時1159号150頁)、取締役会設置会社以外の会社については、取締役の過半数による決定(大判昭和7年6月10日民集11巻1365頁)によるとされています。

 以上のように、取締役の報酬は、単に取締役に就任しただけでは発生せず、定款または株主総会決議で報酬を定めなければなりません。取締役の就任時には、報酬支払につき、手続が履践されているかどうかを確認しましょう。


5.取締役の責任

(1)任務懈怠責任

 取締役は、その任務を怠ったときは、会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(会社法423条1項)。

 任務を怠ったことを任務懈怠(にんむけたい)と呼びます。任務懈怠には、定款または法令違反が含まれており、上述した善管注意義務・忠実義務違反もその代表例になります(会社法330条、民法644条、355条)。

(2)第三者に対する責任

 取締役がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該取締役は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社法429条1項)。

この規定は、第三者を保護するため、取締役が直接に第三者に対して責任を負うことを定めたものです(最判昭和44年11月26日民集23巻11号2150頁)。

中小企業において会社が倒産した場合において、会社債権者が会社から債権を回収できないことから、その会社の取締役に対して、会社法429条1項の責任を追及するという形で、利用されています。

(3)役員等賠償責任保険契約

 取締役に就任する際に、会社役員賠償責任保険(directors and officersの頭文字をとってD&O保険と呼ばれる)を確認する必要があります。令和元年会社法改正によって、役員等賠償責任保険契約として規定されました(会社法430条の3第1項)。

役員等賠償責任保険契約とは、上述の任務懈怠責任(会社法423条1項)や第三者責任(会社法429条)等の、職務執行に関し責任を負うこと(損害賠償等)、または、責任の追及に係る請求を受けること(防御費用)によって生ずることのある損害を保険者が填補することを約するものです(会社法430条の3第1項)。

役員等を被保険者とするものの内容を決定するには、取締役会設置会社では取締役会の決議、取締役会非設置会社においては株主総会決議による必要があります(会社法430条の3第1項・2項・3項)。

 なお、役員等賠償責任保険契約について、取締役又は執行役を被保険者とするものについては、利益相反取引規制について適用除外となります(会社法430条の3第2項)。これは、役員等賠償責任保険契約については、もともとは利益相反性を有するとされていましたが、上述のとおり新たに規律がされたため、重ねて利益相反取引規制を適用する必要性がないためと考えられます。

 また、公開会社は、役員等賠償責任保険契約に関する事項を事業報告の内容に含めることが必要です(会社法施行規則119条2号の2、121条の2)。



〇参考文献

・江頭憲治郎『株式会社法(第8版)』(有斐閣、2021年)

・田中亘『会社法(第2版)』(東京大学出版会、2018年)

・法務省民事局「会社法の一部を改正する法律の概要」(https://www.moj.go.jp/content/001310775.pdf、2022年10月28日最終閲覧)


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代表弁護士経歴

2010.12 大江忠・田中豊法律事務所入所

2017.04 全国銀行協会あっせん委員会事務局付弁護士 就任

2020.07 飯田橋法律事務所開設

著書及び論文

「判例でみる音楽著作権訴訟の論点80講」(日本評論社、2019年)(共著)

「遺産分割実務マニュアル(第4版)」(ぎょうせい、2021年2月)(共著)

「離婚・離縁事件実務マニュアル(第4版)」(ぎょうせい、2022年2月)(共著)

https://www.nakanobengoshi.com/post/isan-manual

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